白夜

雷鳴轟く夜。白熱灯の濁ったオレンジに照らされながら空を見上げると、雨粒が落ちてくるのがはっきりと見える。「地を探す雨の音、天に昇る雨の雫、傘を差すことも忘れて永劫を感じていました。」もう今は居ない誰かに向けて書かれた懐かしい言葉をなぞるよ…

赤い月

月明かりの失われた街はひっそりと静まり返っており、全ての生物は呼吸を止めて物陰に潜んでいるようだった。 時おり吹きつける空風が笛の音にも似た呻き声を漏らして通り過ぎていったが、草木達は直ぐに何事も無かったように振舞い、夜は変わらぬ静寂を保ち…

東京

北千住から千代田線~山手線と乗り継いで池袋へ、そして池袋から新宿へと向かい、中央線で上野まで戻る。 電車に揺られながら、ひっそりと静まり返った東京を眺めていた。この街で正月を迎えるのは何度目のことだろう。 人の気配が失われるだけで、こんなに…

斜陽

柔らかな夕陽に満たされた部屋で老婆がオレンジ色に染まりながら座っていた。 前、後。前、後。 揺り椅子のリズムにあわせて、掠れた歌声が聴こえてくる。 しゅいろに、みたされたのは、わたしのみぎて しゅいろに、いろどられた、あなたのひだりて ひきさか…

聖者の行進

夢を見た。 それは、遠くから風の唸る音が聴こえてくる深い夜のこと。 白い雪に満たされた街の外れから、仮面を付けた聖者達の行進がやってくる。ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく。 凍えた風が頬を撫ぜるがままに僕はそれをただ黙って眺めていた。 聖者…

闇の中に差し込んだ一条の光 埃塗れの部屋で、暖かいものを探すようになぞる どのくらい彷徨っていたのだろう燃えるようなオレンジに身を焦がして、ゆらりと立ち上がる 眩い光に溶けながら未来へと伸ばした手まだ届かない

雨が降ってきた誰も望んではいないのに でも僕は知っている いつか雨も止んでしまうことを 失ったものは懐かしい匂いがする それは12月の終わりのように君といた季節 時は流れて、いつしか降り積もり色褪せた寝顔、愛しくてそっと撫でてみる 季節が去った …

仄かに薄暗い夜明け前 何かが生まれる高揚感に包まれながら、 汗ばんだ手を握り締め、無力さ噛み締めた 静寂で満たされたまま繰り返し流れる単調なメロディ目を閉じると、何も無い目を開けても、何も変わらない からっぽの始まりと終わり ふいに誰かの笑い声…

目を閉じて

怯えた手で触れてみた暖かくて恥ずかしくて笑って、おどけた 全てが、君で満たされた そんなこと、適うはずもない 届かぬ景色に想いを馳せながら そっと目を閉じた

鳥篭の鳥、パンを啄ばみ、空を忘れる

安寧とした暮らしの中、ぼんやりと生きていたい。できれば、猫を撫ぜながら。それを叶えるために、絶望的なまでの金が必要とされている。要領が悪い、臆病だ、だから身体を削っていくしかない。会話を繰り返す度に、どこからか軋む音がする。偽りの中で、出…

永劫の中で

聞こえますか? 叫んでみました 届かぬ手紙を記しながら、 探していました 息を継ぐことも忘れて求めてみました 地を探す雨の音 天に昇る雨の雫 あたしは傘も差さずに永劫を感じていました

暗い海岸線を覚束ない足取りで歩みゆくその男の姿は、まるで夢遊病者のように儚く悲しげに映る。 「きっと君を踏みにじってきた」 「そうして生き延びてきた」 男の呟きは浜辺に染み渡り、砂粒に混じって散乱する貝殻に吸い込まれていく。 遠くで灯台の明り…

月と小人

全てを飲み込んだ漆黒の海から漣が吐き出されては消えていく。それとコントラストを成すかのように、浜辺では砂粒が月光に反射してキラキラと輝いていた。昼間の喧騒に置いてけぼりにされて静まり返った浜辺の様子を気に止める者は無く、漣の他に音といえば…

天使にだって、なれるって

猫が死んでいたんです。 十字路の真ん中でずぶ濡れになりながら辛うじて生物であったことが認識できるような・・・それぐらいボロボロな状態で。もちろん走っている車達は目もくれませんよ。猫のことなど気付いても気付いてなくともお構いなしです。 歩道を歩い…

手を握り締めて

何時の日からか漠然とした恐怖が俺を覆っていた。 大切なものを失う喪失の痛みを知った日からだろうか? 安寧の心地良さを知ってしまったからだろうか? それでも俺は恐れの向こう側にあるはずの暖かいものを欲しがった。ギョロリとした目をぎらつかせながら…

ブラックアウト

ふっふっはっ、ふっふっ・・・いったい何処まで続くんだ、この直線は・・・先が霞んで見えるじゃないか・・・はっはぁ、落ち着け、呼吸を整えろ。焦ったって仕方がないんだ。ふっふっ、はっはっ・・・。冷静になって考えろ、次の角を曲がり終えるまでにウィルモッツを捉…

ラルゴ -The remake of "the dog of winter"-

空風吹き荒ぶ冬の夜のこと。ガードレール脇の芝生に痩せこけた野良犬がポツンと座っていた。その野良犬がまだ誰かの飼い犬だったとき、家族からは親しみを込めて「ラルゴ」と呼ばれていたが、今の野良犬をそう呼ぶ人間は誰もいなかった。 車の群れが轟音を響…

The Night needs Dead End.

夜を逃れるように眠りに堕ちても、新しい夢が見られる保証など何処にもない。見上げれば自分が底にいることを実感するだけ。終焉のベルを追い求め、現実を踏みしめてみたところでいったい何が変わるというのだろう。わかっているのは、昨日は今日に、今日は…

雑踏に飲み込まれてゆく彼女の姿を、ただ、ぼんやりと眺めていた僕と彼女の心が何一つ変わらないとしても、 時の流れが否応無しに二人を引き裂いてゆく 人は、立ち止まりながら生きていけない

君となら

何かが足りない日常に訪れた、 言葉では、 伝えられない想い 掠れた旋律に、含まれた真実 その光に包まれて、 君となら、乱れてもいいよ 君となら、届くはずだから

昨日吐いた嘘に真実を含ませるために、今日の嘘をつく今日の嘘が零れてしまわないように、明日の嘘を練っていく それが良いことなのか悪いことなのかは誰にもわからないけれど、 世の中が潤滑に廻っているということは、 誰かが嘘をついている、そういうこと…

週末の人波に抗う力もなく、削られるように疲弊していった。 目的を見失って漂う私は、ため息にも似た白い息を吐き出し、道端に座り込む。 何時だってそうだ。 私はその場所に留まることを許されない、場違いな人間。 脱力感で呆けている私に一瞥をくれるこ…

失われた色

小さな頃、探していた あたしだけの色 手を伸ばせば届くような気がしていた終わりを迎えるなんて想像もしなかった そっとしておいて それだけを望むの触れないで欲しい あたしの傷口に あなたでは満たされないから 泣かないで お願いだから それを美しいと思…

役目を終えた電話ボックスの冷たい影に隠れるように、どうしようも無い気分で疲れた荷を降ろす 願い適わぬまま、今日という一日が終わってゆく明日に繋がる今日を望み、また灯が消えてゆく 忙しそうに街を横切る人々は、夕陽を眩しいと思うのだろうか

今日という一日

我が家の猫がニャーニャーと騒いでいる。 何事かと訝しげに思いながら視線をそちらに移すと、ご飯茶碗を右腕で叩きながら「おなか減ったぞー」とシュプレヒコールを繰り返している模様。 外界で汗水垂らしながらあくせく働いていた自分が、一日中室内で物思…

Be Happy

「君はもっと君にしか出来ないことをすればいいじゃないか。」 「あたしは仕事に貴賎があるとは思っていないの。テーブルの上にお皿を並べる人だって、眉間に皺を寄せながら書類に判子を押す人だって、大した違いは無いと思うわ。」 「テーブルに皿を並べる…

呼吸

東の空を眺めながら、 羽根を仕舞う鳥達 適えられること、あと幾つ残っているのだろう 伸ばした指の先に、 触れたものは 弾け飛んだ泡の中に、 託したものは 笑いながら泣くことを覚えた、 月の無い夜 誰も傷つけずに進むには、この道は長すぎて 少しの笑い…

冷たい海

忘れようとする度に記憶の中で鮮明に蘇る、冷たい海岸線を眺めながら途方に暮れていた。音も立てずに漣が打ち寄せられては消えてゆく。何処にぶつけて良いのかわからない苛立ちが募り、憂鬱さを悟られないように勢い良く足で砂浜を蹴り飛ばした。 「生きとし…

flow

地図にも残らない場所で裏切れるほどの愛を手に入れて雲の隙間から零れる光を求めた また何かを忘れて生きていく 答えを求める会話が繰り返されて いつしか溜息さえ凍える景色にも慣れて何が伝えられるんだっけ? 何を伝えたいんだっけ? 欲しくもないリアリ…

君と僕で

大切なことを忘れて、 軽々しく笑ってしまうような口なら、 要らないんだ 不必要なものを切り棄てる、 前しか見えない目など、 欲しくはないんだ 何処までも埋まらない距離を、 君と僕で打ち消してやるんだから