2099-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「愛している」と「信じている」はどうして切り離せないのだろう

暖かいシチューを作ろうとして、牛乳でルウをかき混ぜて、適当にじゃがいもと牛肉を放り込んで、隠し味にコーンポタージュの素なんて入れたりしてみたのだけれど、ぜんぜん美味しくないなと思っているうちに鼻水が出てきて、止まらなくなって、なんだかしれ…

こんな自分だってわかってはいたけれど、それでも誰かと一緒にいたかった。こんな自分と一緒にいてくれるはずもないのに。握り締めた手は小さくて、僕を信じさせるには充分だった。

まだシチューが暖かかった頃、カラスの夢は見るの?と心配してくれたことを思い出す。泣き疲れて眠り、嗚咽で目を覚ます。延々その繰り返し。誰かと話がしたい。でも誰にも会いたくない。長い病名と共に処方された錠剤を噛み砕きながら、たった一つのことを…

孤独の月

バスターミナルに設置されたベンチに腰掛けながら、地べたに膝を抱えてうずくまる浮浪者を見下ろしていた。 特に何か目的があったわけではない。すべきことが無いという観点からみれば二人は似たようなものだ。 明確な違いは所持金の有る無しぐらいか。 私の…

観覧車

群青色を頼りにどこまでも昇っていく仮初の高さから見下ろした街はやけに静かで「世界が廻るのはいったい誰の仕業なのだろう」と君は呟いた「さぁ・・・働き者なんだろうね」 意味のない相槌の後、 「でも、僕らを仲間外れにしたのは、僕らに違いない」そう言い…

後姿

痩せた月を見上げても乾いた心は満たされない あっという間に置き去りにされていく今日に明日へ踏み出す意味も見出せないまま もう一度、会って話がしたい ここではない、どこかで君の後姿ばかり思い出して零れる涙

熱海、潮騒にて

隣で寝ている同僚のいびきが煩い仕方なく浜辺を散策することに 自分の家族を持つことは諦めている あまり良い思い出がないからと誰かに責任を擦り付けるのも嫌だし子供が欲しいとも思えない決して口にはするまいと固く結んで 月を探していると また一つ、空…

白夜

雷鳴轟く夜。白熱灯の濁ったオレンジに照らされながら空を見上げると、雨粒が落ちてくるのがはっきりと見える。「地を探す雨の音、天に昇る雨の雫、傘を差すことも忘れて永劫を感じていました。」もう今は居ない誰かに向けて書かれた懐かしい言葉をなぞるよ…

赤い月

月明かりの失われた街はひっそりと静まり返っており、全ての生物は呼吸を止めて物陰に潜んでいるようだった。 時おり吹きつける空風が笛の音にも似た呻き声を漏らして通り過ぎていったが、草木達は直ぐに何事も無かったように振舞い、夜は変わらぬ静寂を保ち…

東京

北千住から千代田線~山手線と乗り継いで池袋へ、そして池袋から新宿へと向かい、中央線で上野まで戻る。 電車に揺られながら、ひっそりと静まり返った東京を眺めていた。この街で正月を迎えるのは何度目のことだろう。 人の気配が失われるだけで、こんなに…

斜陽

柔らかな夕陽に満たされた部屋で老婆がオレンジ色に染まりながら座っていた。 前、後。前、後。 揺り椅子のリズムにあわせて、掠れた歌声が聴こえてくる。 しゅいろに、みたされたのは、わたしのみぎて しゅいろに、いろどられた、あなたのひだりて ひきさか…

聖者の行進

夢を見た。 それは、遠くから風の唸る音が聴こえてくる深い夜のこと。 白い雪に満たされた街の外れから、仮面を付けた聖者達の行進がやってくる。ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく。 凍えた風が頬を撫ぜるがままに僕はそれをただ黙って眺めていた。 聖者…

闇の中に差し込んだ一条の光 埃塗れの部屋で、暖かいものを探すようになぞる どのくらい彷徨っていたのだろう燃えるようなオレンジに身を焦がして、ゆらりと立ち上がる 眩い光に溶けながら未来へと伸ばした手まだ届かない

雨が降ってきた誰も望んではいないのに でも僕は知っている いつか雨も止んでしまうことを 失ったものは懐かしい匂いがする それは12月の終わりのように君といた季節 時は流れて、いつしか降り積もり色褪せた寝顔、愛しくてそっと撫でてみる 季節が去った …

仄かに薄暗い夜明け前 何かが生まれる高揚感に包まれながら、 汗ばんだ手を握り締め、無力さ噛み締めた 静寂で満たされたまま繰り返し流れる単調なメロディ目を閉じると、何も無い目を開けても、何も変わらない からっぽの始まりと終わり ふいに誰かの笑い声…

目を閉じて

怯えた手で触れてみた暖かくて恥ずかしくて笑って、おどけた 全てが、君で満たされた そんなこと、適うはずもない 届かぬ景色に想いを馳せながら そっと目を閉じた

鳥篭の鳥、パンを啄ばみ、空を忘れる

安寧とした暮らしの中、ぼんやりと生きていたい。できれば、猫を撫ぜながら。それを叶えるために、絶望的なまでの金が必要とされている。要領が悪い、臆病だ、だから身体を削っていくしかない。会話を繰り返す度に、どこからか軋む音がする。偽りの中で、出…

永劫の中で

聞こえますか? 叫んでみました 届かぬ手紙を記しながら、 探していました 息を継ぐことも忘れて求めてみました 地を探す雨の音 天に昇る雨の雫 あたしは傘も差さずに永劫を感じていました