暗い海岸線を覚束ない足取りで歩みゆくその男の姿は、まるで夢遊病者のように儚く悲しげに映る。
「きっと君を踏みにじってきた」
「そうして生き延びてきた」
男の呟きは浜辺に染み渡り、砂粒に混じって散乱する貝殻に吸い込まれていく。
遠くで灯台の明りが点滅を繰り返す度に、遠吠えを繰り返す犬の泣き声が聴こえる。
男が探しているのはもう見つからないものなのだ。
一度手から零れてしまったら、再びそれに巡りあうことは、砂漠に落ちた一粒の星屑を探すことよりも難しい。
男はそれを知りつつも夜の砂浜を彷徨い続ける。
見つからないから探している。生きることは、時に矛盾を孕むもの。
痛みを覚えた臆病な心と数え切れない傷跡。
喪失と失望により耐え切れなくなった希望の眩しさ。
そこには、夜の海が悲しく映る幾つかの理由が潜んでいる。
言葉は遠くに。
辺りは静寂に包み込まれた。