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時計の針はきっかり12時を指していた。
ふとあたりを見回してみると、会社に残っている人間がいつの間にか自分だけになっていることに気付く。通りで静寂が五月蝿いわけだ。残業代も出さない会社に対しボランティアで尽くすことをバカバカしく思い、残りの仕事は明日へ持ち越すことに決め、帰り支度に取りかかることにした。私はデスクから弱々しく立ちあがると、プリンターの電源を切り、窓を閉めた。これで良し、と…。
オフィス内の電灯をすべて落とした後、私は一日の疲れを癒すべく椅子にどっかりと座り、背もたれに身体を委ねた。・・・ぼんやりと視線を宙に漂わせるうちに、最初は黒一色の世界だったのが次第に目が慣れてきて、暗闇の中から赤や緑の点滅が浮かび上がってくる。それは幼少の頃たった一度だけ見た蛍の群れを想起させた。
私は幼少の頃に思い描いた未来に辿りついているのだろうか?
望んだ世界に一歩でも近づけたのだろうか?
ここに至るまで築き上げてきたものとはいったい何なのだろう?
疲労困憊のなか答えのでない問いを繰り返すうち、私は何時の間にか自分が泣いていることに気付いた。頬を静かに伝う涙。それは次第に嗚咽となり、内なる咆吼へと変化した。この場所に私がいることを誇示するべく。
私を覆う感情はあまりにも酷いもので、それに対し私はあまりにも脆弱であり、暗闇の中で叫び声をあげることぐらいしかそれを紛らわす術が思いつかなかったのだ。
ただひたすら疲れている。
私は静かに目を閉じた。