群れから逸れた一匹のあたしが、サバンナでライオンに遭遇した

見渡す限りの平原は逃れられぬ死への恐怖

あたしは走り出す気力も失って、その場にヘタリと座り込んだ


絶対に敵わない、絶対に逃れられない

だとしたらライオンは、あたしにとって運命そのものだ


悠然と距離を詰めてくるライオンを前に、

あたしは全てを覚悟し、両手を天に翳した

神よ、我を受け入れたまへ


獰猛な牙でサバンナの大地に転がされ、

見上げれば、太陽を覆いつくすライオンの姿


そんな時、

あたしはぼんやりとした面持ちで、

あたしを思い出していた


気が付けば、昨日は今日に追い遣られて、

栄光にも夢にも愛にも、届かない毎日の連続だったと思う


それでも、あたしは自分に素直に生きた


美味しいものを食べては腹を満たし、

後ろ指を差しながら人を貶してきた


それが、多くの犠牲の上に成り立っていると知りながら

それが、醜い己を作り上げることを知りながら


あたしは何もかも欲しがった

でも、何一つ掴めなかった


胸の中に散らかっている小さな羨望を掻き集めれば、

いつの間にか聳え立つ絶望があたしの心を塞いでいた


そんな人生

抗う術も知らない一つの人生が終わりを迎えようとしている


神は許したもうだろうか?

あたしは許しを乞うだろうか?


あたしは、あたしを満たせたのだろうか?


生まれて初めて、生と真剣に対峙した

生きていることに、限りない感謝を抱いた


肉に食い込む牙を受け入れようと、

ライオンを力の限り抱きしめた


そうだ

あたしはあたしを愛している


それは生命の終わりに気付いた、

たった一つの真実