夜に轢かれて

雲の流れがやけに速い夜のこと
人通りの無い交差点で信号が虚しい役目を果たしている

意を決して一匹の猫が通りを横切ろうと飛び出したが、
轟音を響かせる車に行く手を阻まれ、足が竦んで身動きが取れなくなった

小さな鞠のように弾き飛ばされる姿がスローモーションの如く映し出され、
それは何者も逆らうことが出来ない絶望的な力を持って時を支配し、
無力な私には、猫が宙に舞う様を呆然と眺める他に術が残されていなかった

アルコールで濁った頭を左右に振りながら、
ふらふらと交差点の中央へと歩みを進める

数分前まで意思を持って動いていたはずの塊が、
今は温かみの無い生命の抜け殻
まるで使い古されたボロ雑巾のよう

尋常ではない速度で生き急いでいる車は流れを緩めようとはせず、
行き先を遮る私に向かい、けたたましいクラクションを鳴らす

こんなにも、ちっぽけで弱々しい存在が他にあるだろうか?
こんな時、誰に何を伝えれば良いのだろう。どんな顔をすれば許されるのだろう
生きとし生ける者は何故ゆえに存在し、何処へ導かれるのか

怒りを持って闇を劈くつんざ咆哮を上げ、
欲望に素直であることを卑しいと感じた

おのが正義の為には、踏みにじっても許されるのか
それこそ詭弁ではあるまいか

合理的であること
利便性に優れているもの
利己を持って作り上げた我々に、
この星のあり方を主張する権利など存在しない
誰もが何かに目を瞑って生き存らえている

せめてもの安息をと、静かな土下を探しても、
コンクリートで埋め尽くされた公道には安らかに眠る場所さえ許されていない
墓標無きまま、月夜に紛れ消えゆく骸

だから今日は眠れない
だから今日も眠れない
全てを抱え、生きゆく為に