ぽつん・・・ぽとん・・・ぴちゃん・・・
何処からか雫が堕ちる音が聞こえてくる。
辺りを見渡してみても一面寒々しい灰色の壁で埋め尽くされており、光は遮られて届かない。
何時からあたしは此処に居るのだろう。
何時まであたしは此処に居るのだろう。

空っぽで満たされたあたしの頭の中に声が響く。
「立ち上がることが出来るのか?お前に。」

あたしは、あたしが作り上げた内なる壁の中で蠢く生き物。言葉では言い尽くせぬ程の退屈に蹂躙されてきたが、ある日の夕刻、壁の一角が気紛れで蝶を逃がすのを見て、あたしも大空を羽ばたく羽根が欲しいと願った。

「それは何だ?覚醒なのか?願望なのか?」
「そして、また無力な己を知る。」

出来ない。
そうやって物事を否定するのは簡単だ。失敗の可能性を伴わない挑戦など存在せず、あたしに成し遂げられる何かがあるとも思えない。全ての生は滅びの一途を辿る命運。
ただその前に、たった一度だけ、
あたしにも空を見せてはくれまいか。

「不毛であることを知るのは恐ろしいことだ。何年も何年も積み上げてきたものが徒労に終わるとき、人は絶望を味わう。」
「ならば始めから手を出さねば良い。」

そう。そうやってあたしは芋虫の如く寝転がりながら、どんよりと濁った眼で明日の行方を眺めていた。

「口先だけか。また口先だけなのか。」

いつも口だけ。口だけは達者に動く。
だから、それは、だけど、だって、
全ては脆弱な自分に対する言い訳に過ぎない。

不確かな闇の向こうを手探りで探ってみるも、得体の知れない何かがあたしの手を竦ませる。未知なる世界へ飛び込むことは快感と共に恐怖を伴う。こうして願望だけ並べることに大した喜びはないけれど、痛みもない。

「反吐が出そうな生き方しか選べなくなった生物。後は汚らわしい体躯が無に還るのを待つだけ。」

ぽとん・・・ぽつん・・・ぴちゃん・・・
ぽとん・・・ぴちゃん・・・
ぽとん・・・
ぽと・・・

ぴちゃん・・・