月の音

灯りを消して、月の光に埋れるように暖かい湯の中へと身体を沈める。
手探りで蛇口を捻り湯を止めると、辺りはしんと張り詰めた静寂に支配された。
耳を澄ますと遠くから微かなエンジンの震えが聴こえてくるだけで、全ての生き物は排されたようだ。
心地良い。こんなにも居心地の良い孤独はいつ以来だろう。
この瞬間が失われてしまうことを惜しく思い、気配を潜めながら頭まで湯に浸った。
生物であることを放棄した私からは、煩わしい余分なものが削ぎ落とされ、やがて無に帰していく。
ああ、そうか。そういうことだったのか。