冬の犬

空風吹き荒ぶ冬の夜のこと。

ガードレール脇の芝生に、痩せこけた野良犬がポツンと座っていた。
そのハイウェイを利用する車の群れは、人工的な光で闇を切り裂き、けたたましい音を響かせ通りを過ぎていった。何台も、何台も、途切れることなく。それは何かこの世の者ではない恐ろしい怪物を連想させた。

不快な車の群れにも慣れてきた頃、ガードレール脇の芝生道に大勢のくたびれた背広達がやってきた。己の足元だけを見つめながら家路を目指して黙々と行進する背広の集団は、ゼンマイ仕掛けの人形なのだろう。

うあああううあ

突然、一人の背広が赤らめた顔で叫びだした。油でも切れたのだろうか・・・。赤らめ顔の叫びは次第に勢いが無くなり、蚊の鳴くようなうめき声を上げた後、その場にうずくまり動かなくなった。錆びた鉄の塊。永遠に。

暗闇に紛れた野良犬の存在に気を留めるものなく、あらゆるものが通り過ぎていった後に、まるで終末を示唆するかのような、気の遠くなるような長い長い静寂と沈黙が訪れた。

満月の光が雲に遮られている間にも地上には絶え間無く光が供給され続け、道路の向かいにある工場の煙突からは延々と煙が吐出されている。

野良犬は哀しそうな瞳で道路を見つめていた。