■
吹雪は勢いを増してきて、次第に視界が奪われていく
赤く腫れ上がった耳には誰の言葉も届かず
悴んだ手を暖めることさえ忘れて
最後には
君以外、みえなくなる
■
楽しくはないけれど
耐えられないこともない
概ねそんな感じで構成されているのが世の常で
いつも喜んでばかりいるほうが不自然に見えなくもない
なんて屁理屈をこねているうちに
時間だけが無為に過ぎ去っていき
それを呆然とした面持ちで眺めているのです
雨はまだですか、夜はまだですか
なんだかすごく静かなのです
もう終わりが近いのかもしれません
どこを切っても真っ黒な液体が溢れ出す悪に憧れて
枯れ枝のような腕を振り回すことにも
疲れ果ててしまったのです
けれども、先生は諦めることを許してはくれません
私は疲れたから眠りたいだけなのに
どうしてなのでしょう
夜はまだですか
朝は来ません
白い太陽が僕を溶かしてしまうからです
だから、だからと
言い訳はもう沢山です
私はただ眠りたいのです
■
悲しみに打ちひがれて沈痛な面持ちで喪に服していたはずなのに、
夕食の時間が来れば当たり前のように食事を摂ろうとする自分がえらく間抜けだなと思う。
こうやって少しずつ生と死の境目が滲んでいく。
別段それが悪いことだとは思わない。
ここまで悲しめば充分だという境界線は無いから、
あいつの分まで生きてやるなんて自分本位な決意をしたり、
あいつは幸せだったなんて決めつけの解釈で片付けたり、
自分を納得させる理由を見つけて前を向くことが出来ればいい。
いつまで経っても忘れられないものなんてこの世の中に一つも無いのだから、
早く涙を拭うべきだ。
そうやって自分に言い聞かせてきたはずなのになかなか上手くいかない。
そういうのが下手糞な性分だからいつまでも引き摺ってしまう。
何でもない晴れた日の昼下がりに、裏山を駈ける君の姿を思い出してまた泣くことがあるかもしれない。
その姿を見て誰か笑うだろうか。
大の男が泣く姿を見て誰か笑うだろうか。
俺にはわからない。
■
執拗に繰り返される永劫の別れに
それまで自分を支えてきた信念に近いものが根元からボキッと折れて
役立たずと罵られている
誰一人として失いたくなかったのに、実際には自分しか残っていない
醜く、浅ましく、そして孤独だ
こんな夜にいったい何を欲しがればいいのだろう
温もりを抱えた者達よ、もう誰も傍に寄らないで欲しい
血まみれの呻き声が夜に漏れていく
■
殺人現場は静かで居心地がいい
誰も無駄なことを喋らないからだ
カーテンがそよぐ姿を愛でる優しさに溢れている
いつもこれぐらいで丁度いい
■
終末を示唆するような暗い言葉
こんな時、世界は想像以上に鮮やかで
私は、逃れる術を知らない
■
灰皿を棄てた
本棚を棄てた
カーテンを棄てた
冷蔵庫を棄てた
絨毯を棄てた
ベッドを棄てた
洗濯機を棄てた
全てを棄てた夜に、夢を見た
浅い眠りの中、やはり声は届かなくて
何もかも忘れたつもりだったのに
まだ未練があるんだなと思った