The Night needs Dead End.

夜を逃れるように眠りに堕ちても、新しい夢が見られる保証など何処にもない。見上げれば自分が底にいることを実感するだけ。終焉のベルを追い求め、現実を踏みしめてみたところでいったい何が変わるというのだろう。わかっているのは、昨日は今日に、今日は明日に続くという紛れも無い事実。

朝の訪れと共に鳴り響く夜へのカウントダウン。心無い励ましの言葉が浴びせられて、ボクはレールから車輪が外れた行く先も見えない電車に揺られ始める。覇気の失われた煙草の煙で視界が遮られ、それでも別に構わないと呟いた。

夜に紛れて、
ボクはいったい何者になれるのだろう。

悪い出来事ばかり起きてしまったと嘆いてみても、それは己の悲観的な思い込みに過ぎない。良かったこと、得られたもの、全ての実感は埃に塗れた者に訪れる錯覚なのだから。諦念に押し潰されそうなボクの目は、黒よりも深い絶望に彩られたまま。

愛欲磨り減った電車がゴトゴトと音を立てて進む。隣の席に座っているのはウィスキーを煽る度に下卑た笑いを浮かべる愚昧。その男と自分は同類なのだと思うと、胃の辺りが爛れて、喉が裏返ったかのように咳き込んだ。酒は万病の薬と云うが、生活破綻者が現実から逃避する為に頼る酒ほど効き目の薄い薬は無い。

あとどれぐらいでボクもあんな風になるのだろう。
奇跡など信じていないのに、何故現実から逃れようとしないのだろう。

山間が薄紫に染まってきて、朝を与えようとしている。電車は名も知れぬ駅で止まり、ボクは肌寒い冬の公園に座り込んで、調子外れの歌唄いの声を心の中でせせら笑った。何も掴めず虚空を彷徨っているという意味で、ボク達は兄弟のようなものなのに。異なる点は、エネルギーを吐き出すか溜め込むかの一点。どの角度から見ても、完璧に無駄な生き物。

次の夜が訪れるまでに、
ボクは其の向こうに辿り着けるだろうか。

昨日吐いた嘘に真実を含ませるために、今日の嘘をつく
今日の嘘が零れてしまわないように、明日の嘘を練っていく

それが良いことなのか悪いことなのかは誰にもわからないけれど、
世の中が潤滑に廻っているということは、

誰かが嘘をついている
そういうことなんだ

週末の人波に抗う力もなく、削られるように疲弊していった。
目的を見失って漂う私は、ため息にも似た白い息を吐き出し、道端に座り込む。

何時だってそうだ。
私はその場所に留まることを許されない、場違いな人間。

脱力感で呆けている私に一瞥をくれることもなく、忙しそうに過ぎ行く人々。
「時間は限られたものなのか?」と問いかけても、
影を踏みつけるだけで、満足な回答は得られなかった。

冬の寒さは音を奪い去る気がする。色が失われている気がする。
美しい言葉は、ここに在るのだろうか?
二度とは戻らないあの日を、思い出すのだろうか?

苦悩を抱えることによって、浮き彫りになるのは己の脆弱さ。
存在を示すために、愛されたいと叫ぶことも出来ない。

全てを飲み込む力が欲しい。
全てを変える力が欲しい。

コンクリートの温もりは冷た過ぎる。

失われた色

小さな頃、探していた
あたしだけの色
手を伸ばせば
届くような気がしていた
終わりを迎えるなんて
想像もしなかった

そっとしておいて
それだけを望むの
触れないで欲しい
あたしの傷口に
あなたでは満たされないから

泣かないで
お願いだから
それを美しいと思えたのは
遠い昔のこと

なんだか嫌いになってしまいそう
あなたのことも
あたしのことも

役目を終えた電話ボックスの冷たい影に隠れるように、
どうしようも無い気分で疲れた荷を降ろす

願い適わぬまま、今日という一日が終わってゆく
明日に繋がる今日を望み、また灯が消えてゆく

忙しそうに街を横切る人々は、夕陽を眩しいと思うのだろうか